イタリア語に「インヴェッキアート・ベーネ」という言葉がある。「良く老いた」という表現であるが、「あの人は歳をとった今が良い」みたいなことだ。歳をとるということは墓場まで一直線という感じがあるが、そんな悲惨なものではない。
まだやりきれていない。もっとできたはずだ。いや、全く違う人生があったかもしれない。あのとき、ああしていれば。あいつが邪魔さえしなければ。なぜ、世の中は私を認めなかったのか。みんなバカなんじゃないか——、とそんなふうに考えてしまうと、良く老いることはできない。逆に、自分は精一杯生きてきたと考えることだ。
私は自分の人生に後悔はない。自分の哲学に素直に従い、やることに関しては精一杯やり、やりたくないことは決してやらない。歳をとるにつれて欲をひとつづつ捨てて、その分幸福と思えることも増えた。人はこの世界に生まれてきて、死ぬまで常に変わり続ける。それが分かっていることで、良く老いることができる。