「産業を振興するために、日本では、政府が音頭を取って、有力企業何社かに出資させコンソーシアムを作り、先端的な技術開発を狙う、といったプロジェクトがよくある。日本のお家芸である。 大企業が少額ずつ出す寄り合い所帯で 具体的用途や顧客が不明な投資をする ということでは限界がある。
インテルやAMDでも見たように、現在世界をリードする半導体企業は一握りの突出した個人が作り上げたものです。 インテルでは、ロバート・ノイスとゴードン・ムーアが製品を開発し、アンディ・グローブが優れた経営力で育てました。AMDでは天才設計者ジム・ケラーがチップを開発し、経営者のリサ・スーがそのポテンシャルを開花させています。 また、M1チップの開発などアップルの開発全体を率いてきたのは、ジョニー・スロウジという人物だ 。ジョニー・スロウジはイスラエルのハイファに生まれ、テクニオン工科大学を首席で卒業した天才で、2019年にはインテルが次のCEO候補として検討したことが報じられたりもしています。スティーブ・ジョブズは、アップルで自前の半導体を開発するために、ジョニー・スロウジを自分の給料の4倍を払ってヘッドハントした。 そして、世界最大の半導体製造企業であるTSMCは、モリス・チャンという個人の頭脳から生まれたことは既述の通りです。モリス・チャンは創業時点で56歳になっていました。還暦に近い年齢で創業した会社が世界一になる、そのような奇跡がなぜ起こったのか? 台湾政府は、モリス・チャンに、「世界に通じる半導体産業を台湾につくり出してほしい」と要請しました。つまり、知りうる限り最も優れた1人の人物に、台湾の半導体産業の未来を託したのです。半導体回路の設計も、新しいビジネスモデルを発想するのも、大人数の協業で可能となるものだけではなく、天才のひらめきが必要です。台湾政府が賢かったのは、成功するには1人の天才にすべてを任せるしかない、というビジネスにおける成功のカギを知っていたことです。
正しい発想とは、台湾がやったように、「1人の突出した天才にすべてを委ね、あとはイチかバチか、うまくいくようにお祈りするだけ」という発想です。 アップルがなぜ次から次へと魅力的な製品を開発し世界をリードし続けているのか、それはジョニー・スロウジが完全に開発を任されて、1人で統括しているからです。 TSMCがなぜ世界一になれたのか、それはモリス・チャンが完全にすべてを1人で決めていたからです。 一握りの天才が率いる企業に何十年もの間、負け続けていることが明らかなのに、いまだに寄り合い所帯でジョニー・スロウジやモリス・チャンに勝てると考えているのはなぜでしょうか?
「常に製品の高スペック化を目指し続ける」というのは大組織の病理の一種と考えられます。 クリステンセンが指摘したように、世の中にある商品の多くが無駄なスペック競争に陥っているのは、企業が「競合に勝つためにスペックを高め続ける」という選択をしているからです。 よく考えると顧客は誰もそのようなスペックを求めていないのに、企業は、スペック追求をやめて別の発想で異なるビジネスをする、というリスクのある判断をしたくない。なので、ほとんどの企業が漫然と高スペックを追求するのです。 顧客の要望を満たしながら、顧客の差別化につながる真に価値ある技術開発をするのには、天才が必要となりますが、天才がいなくても、誰でもできるのがスペック追求です。 サラリーマンの組織でも目標がスペック向上なら社内で異論が出にくく、エンジニアにとって開発目標も明確になり、官僚を説得して予算をもらうにもスペックだと誰でもわかるので明快で、いいことばかりです。 つまり、開発目標としてスペックを設定するのは最も簡単な意思決定であるということです。 そうした意思決定でただ一つ問題があるとすれば、そのように開発しても、「誰も買わない」ということです。
日本はかつての栄光を忘れられないでいる。大量生産によって世界を席巻したときのことだ。大量生産は事業部制などの組織によって行われた。それが今でも続いている。日本の教育は天才を作らないかというとそうでもない。天才は自分で勉強するからだ。教育など必要ないのだ。ただ日本はそういう人を変人と呼び社会に適応しないものとレッテルを貼る。日本が今必要としているのは天才なのだが、変人の中から探すしかないのかも。