さくら薬局倒産

10〜15分

クラフト(東京都千代田区)とそのグループ会社8社はADR申請をした。

社名になじみは薄いが、「さくら薬局」というピンクの看板の調剤薬局を全国で1000店舗以上チェーン展開し、2021年3月期の売上高は1239億円に達する。グループの金融債務は1000億円規模とみられ、対象債権者はメインバンクの三井住友銀行を筆頭に80社前後もある。

 なぜ経営が悪化したのか。事情通によれば、きっかけは新型コロナウイルスの感染拡大だという。調剤薬局は比較的規模の大きな医療機関の門前に店舗を開設し、その病院で処方箋を受け取った患者を待ち構えるという業態がほとんど。ところが、コロナ禍でコロナ患者以外の「不要不急」な通院は大きく減少してしまった。病院に行けば感染リスクが高いのだから足が遠のくのは当然である。その結果、クラフトの20年3月期の売上高は1937億円あったが、前述の通り21年3月期は1239億円と36%も落ち込んでしまった。

 ちなみに、事業再生ADR手続きは原則非公表とされ、債務者自身と対象債権者以外のステークホルダーは知るすべがない。しかし、債務者が上場企業であれば投資判断に極めて重要な情報のため原則を曲げて適時開示される。

 クラフトは非上場ながら、全国に1000店舗展開する大手企業であり、国民の健康づくりを担う調剤薬局の経営がコロナ禍でいかなる危機に直面しているかを報じることは、高い公益性があると考える。クラフトの創業は1982年。1号店の所在地は板橋区大谷口上町で、昨秋、建て替え工事を巡る背任事件で日本大学の理事らが逮捕される舞台となった「日本大学付属板橋病院」の向かいにいまもある。

 創業者の梶弘幸氏と、創業メンバーで91年から社長を務める森要氏はともに日大出身だ。以後出店を重ね、95年に株式の店頭登録(現ジャスダック上場)を果たした。

 99年にはイオン、ツルハと資本・業務提携を結び、その後も順調に成長を続け、08年3月期には年商700億円をあげたが、期中の07年12月に森社長によるMBO(経営陣による買収)で非公開化すると表明し、08年4月にジャスダックの上場を廃止した。当時の店舗数はおよそ270だった。非公開化を選択した理由は次の通りだ。「調剤薬局業界は規制業種であり、国の方針として医療費削減が不可避の状況下で、上場企業の使命である増収増益を図ることは非常に困難な状況となっています。また既存薬局をめぐるM&A取引による争奪戦は熾烈を極め、規模の利益を追求した拡大戦略が厳しい価格競争を引き起こして業界各社の足元の収益を圧迫することは確実視されつつあり、拡大戦略が将来の収益向上に確実につながるのか不透明な状況となっています」と経営環境の厳しさを示した上で、「07年度前半における株式市場の上昇局面においても、同業の調剤薬局上場各社の株価は総じて下げ基調にありました」と、短期的な株主の期待に応えることが難しくなっているとした。

 確かに大きな総合病院の前には何軒もの調剤薬局が並んでいるのをよく見かける。すでに店舗は飽和状態で、業界では既存店をカネに物を言わせて買収する「陣取り合戦」が繰り広げられているというわけだ。

上場を廃止した上でクラフトは株主の目線を気にすることなく結局のところM&Aによる店舗数拡大にまい進する。20年にはグループ1000店舗を達成した。上場廃止からの12年間で約730店舗増やしたことになり、単純計算で1年に約60店舗ずつ拡大してきたことになる。その結果、有利子負債は08年3月期末に87億円しかなかったが、直近で1000億円規模に膨らんでしまったのだ。

事情通によれば「クラフトは買収した企業の調剤報酬債権を金融機関に担保提供して次の買収資金を借りるという自転車操業がコロナ禍で行き詰まった」という。調剤報酬が予定通り稼げれば返済に困ることはなかったわけだ。もうひとつ誤算だったのが、コンプライアンス体制にもほころびが生じて行政処分を受けたことだ。20年3月に「さくら薬局会津若松店」(福島県)が厚生労働省東北厚生局から保険薬局指定の取消処分を受けた。クラフトが運営するほかの薬局で行った調剤を会津若松店で行ったものとして不正に請求していた。国の定める「調剤基本料1」の基準をクリアするためだったという。

 会津若松店は例によって地元の大病院である「竹田綜合病院」の目の前にあり、依存度が極めて高かった。不正はこの地域のエリアマネージャーの指示があったとみられる。株式非公開化によりプライベートな存在となっても最低限守るべきルールはある。この一件でコンプライアンス体制の立て直しが求められることになった。

 クラフトグループの経営再建の行方について関係者は「コロナ禍がおさまればキャッシュフローは十分に出るだろう。債務再編により足元の返済負担を緩和すればやっていけるのではないか」と分析する。債務カットは不要というわけだ。ADR手続きの成立には80社前後の対象債権者すべての同意が必要だが、債権放棄が不要であれば反対は出にくいとみられる。いまのところ最終的な事業再生計画案の決議は10月を予定している。

 さくら薬局は私の家の近くにもある。整形外科の隣にあるのだが時々覗くと儲かっていないように思える。三人くらいのスタッフがいるのだが、コロナ下で整形外科に行く緊急性も低いだろう。ドラックストアでもやっているし、あれだけの数の薬局が必要なのかと思ってしまう。そんな状況で調剤薬局の数をどんどん増やしてきたのは戦略ミスと言わざるを得ない。

WordPress.com で次のようなサイトをデザイン
始めてみよう