安すぎる日本技術者の報酬

8〜12分

 アマゾンが従業員の年収上限を日本円換算で4000万円に引き上げたと報じられた。技術者の引き抜きに対抗する狙いがあるという。 アマゾンの場合、ソフトウェア・エンジニアリング・マネージャーという職種の場合には、最高クラスの年間給与が81.5万ドルになっている。円に換算すれば1億円近くなる。グーグルのソフトウェア・エンジニアでトップクラスのプリンシパル・エンジニアを見ると102万ドルで、1億1628万円になる。  メタ(旧フェイスブック)でトップクラスの年収を見ると85.1万ドルだ。  アップルのソフトウェア・エンジニアで最高クラスの年収は76.8万ドルだ。  グーグルの場合には、基本給が33万ドルでストックオプションが58万ドルになっているのだ。そしてボーナスが12.3万ドルだ。

 アメリカの特徴は、経営者だけでなく、技術者など高度専門家の給与が高いことにもある。 以上は、時代の脚光を浴びている企業の、しかも、特別に所得が高い人たちである。だから、ごく一部の人だけのことだと思われるかもしれない。  しかし、アメリカでは、高度専門家の所得が一般に高い。  アメリカ商務省のデータで見ると、「情報データ処理サービス」部門の2020年の平均給与は18.4万ドル(2100万円)だ。

 日本の場合には、大学院生の初任給は男女平均で年306万円だ(厚生労働省の「令和2年賃金構造基本統計調査の概況」による)。  これは医学部も含む数字だから、それを除けば200万円台だろう。  日本は、専門家を評価せず、彼らに対して相応の報酬を払っていないことがわかる。 OECDによると、2020年における賃金は、日本が3.85万ドルでアメリカが6.94万ドルだ。だから、日本はアメリカの6割以下だ。

 アメリカでは、転職のマーケットが形成されている。日本では、このようなマーケットはない。ジョブハンティングや個別的な人脈に頼らなければならない。  日米のもう1つの基本的な違いは、アメリカ企業の収益率が高いことだ。  巨大IT企業の収益は非常に高い。それは、専門家の力が実現しているものだ。  例えば、アップルの場合には、つぎのとおりだ(2010年度)。  売り上げから原価を引いた付加価値の総額は、1528億ドルだ。従業員数は15.4万人なので、1人当たりでは99.2万ドルになる。仮にこの6割が人件費だとすると、59.5万ドル。日本円では、6785万円になる。経営者の報酬などを差し引いたとしても、高級技術者に1人当たり数千万円の年収を支払うことは十分可能だろう。  以上のように給与の数字を並べれば、「人間の幸せは所得で決まるわけではない」との反論があるだろう。  そのとおりだ。「人はパンのみにて生きるにあらず」とは、2000年以上にわたって、(キリスト教徒以外の人々も含めて)人類が認めてきたことだ。所得がなくても心が豊かである人は大勢いる。  しかし、だからといって、社会全体として所得が重要であることを否定するわけにはいかない。

 日本の技術者の給料が安い原因は、技術者サイドにもある。日本の技術者を見ると総じて、非常に狭い範囲の技術しか知らない人が多い。だから良い成果を上げてもその効果が見えてこない。また転職価値も低い。やはり、一つのプロジェクトを担当するくらいの技術力、戦略能力を身につけるべきである。工場の一技術者で終わろうと思わないこと。私は東芝セラミックスに入社してすぐ、週に一回、夜行で川崎まで行って一日講義を受けて夜行で帰るのを半年続けた。講義は戦略立案から高度な信頼性理論などだった。普通の技術者で終わるつもりはなかった。新技術を開発して、量産化し、売り歩く。一つのプロジェクトが成功すれば次の新しいプロジェクトをやる。私はそのおかげですべて(開発から販売)を知っている唯一の存在だと思う。今の日本はそういうことができないようにしてしまった。引き抜かれたら終わりだからだ。アメリカは引き抜かれないように高年収にしたが、日本は引き抜かれないように狭い範囲しかできないようにした。技術者を無能化したのだ。しかしそれが日本の企業をだめにしている。

 日本の衰退はチャレンジを恐れるときから始まった。チャレンジは失敗することもある。しかし、それは技術者を育てるために必要なことだ。そしてプロジェクトを成功に導くような技術者をたくさん作るべきだ。そういう人には高報酬にする。そういうことで活性化すれば日本もよみがえるかもしれない。

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