「ここに来てなぜ、会社の存在意義が大切になっているのか。背景には、いくつかの理由がある。一つは、急速な技術変化である。IoTやAI、ロボティクスなど、この20年ほどで起こったデジタルの技術革新は、社会構造を大きく変えた。産業の主役が工業から情報へと移行する中で、企業も情報化社会に適した経営や組織へのシフトが迫られている。情報化社会では、顧客や従業員などのステークホルダーからの共感を得ることが、事業推進に不可欠なのだ。よく言われるモノからコトという動きの本質は、新しい価値観に基づいたビジネスモデル、つまりシステムをつくるということにある。そしてシステムには必ず、設計思想が必要になる。自分たちの会社は何をすることを価値だと考えており、その結果、どんな社会を実現したいのか。
ここを起点に新しい試みを始めなければ、事業が迷走する可能性が高い。その意味で、企業はどのような価値を提供するかという「What」以前に、なぜその事業をやりたいのかという「Why」が問われている。
商品を選ぶ際には、価格や機能よりも、そこに内在する意味を重視し、開発した企業の姿勢への共感を大事にする。先進国のミレニアル世代・Z世代は、環境問題といった社会課題にも敏感だと言われ、サステナビリティといった言葉に対する感度も高い。
金銭的な報酬も生きていく上では必要だけれど、それ以上に、自分が意義を感じるプロジェクトに関わっていたいと考えている。その背後にある本音は、「未来は予測できないし、絶対的な答えは分からない。それでも、自分と同じような価値観を持つ人や企業と一緒に、答えのない時代を、この瞬間を楽しみながら歩んでいきたい」というものだろう。
売上高や利益といった従来の経営指標だけで成功を測ることは、次第に難しくなっている。むしろ、これから大切になるのは、企業がどのような世界をつくり出したいのかというビジョンや世界観を示すことである。 だが表現の違いはあれど、ほとんどの企業が自社の存在意義を定義している。ミッションやビジョンを策定して自社サイトに掲載している企業も少なくない。しかし、それらが本当の意味で会社の中で生きた一人ひとりの人生の物語となっているケースは、残念ながら多いとは言えない。
特に歴史を重ねてきた伝統企業ほど、その意義を見失っている場合がある。経営者の交代や事業の成長、多角化の結果、創業者が持っていた会社のDNAが希薄化し、いつの間にか存在意義が曖昧になったり、社内で一貫性が保てなくなっていたりする。創業期には明確に存在した理想像と向かうべき方向が、どこかのタイミングで失われてしまうのだ。
工業化時代の「生産する組織」では、たとえ意義が希薄化したとしても、経営の深刻な問題になることは少なかった。前述した自動車業界のように、「やるべきこと」「作るべきもの」が明確に決まっていたため、経営者は大きな方針を示してさえいれば、生産活動は分業体制で効率的に管理できたからだ。
ところが、情報革命によってあらゆる人がネットワークでつながった時代には、状況が大きく変わってくる。 情報化社会は、さまざまな人や会社が、データやコミュニケーションなどの相互作用の末に、新しい製品やサービスのアイデアを生んでいく。企業はデータやアイデアなどの無形資産を集める場となるが、最終的に新しい価値を生み出せるかは、人にかかっている。従って、企業は人が大きなビジョンや存在意義を持てる場であり続けることが重要になる。
社員一人ひとりの思いや意義を引き出し、それらを会社の向かう方向と一致させていく「創造する組織」に転換する必要があるのだ」
若い人の爆発力は大きい。それを発揮できるようなモチベーションを企業が与えることが重要である。