カナダの生化学者イアン・マクラクランの革新的な薬物送達システムなくしては、モデルナ社もファイザー社もmRNAワクチン接種の安全性は確保できなかった。では、なぜこのカナダ人生化学者の多大なる貢献は世に知られていないのか──なぜロイヤルティーが支払われていないのか。以下は、米フォーブスの数カ月に及ぶ調査の結果である。
人類がパンデミックを抑えるためにmRNAをヒトの細胞に届ける方法を必要としたとき、信頼できる利用可能な手段は1つしかなく、それを発明したのはファイザー社でも、モデルナ社でも、ビオンテック社でも、その他の大手ワクチン製造会社でもなかったことだ。 フォーブスの数カ月に及ぶ調査で明らかになった事実によれば、このきわめて重大な送達方法を編み出した最大の功労者は、無名と言っていい57歳のカナダ人生化学者イアン・マクラクランである。
2つの小規模な会社、プロティバ・バイオセラピューティクス社とテクミラ・ファーマシューティカルズ社で主任研究員としてこの重要なテクノロジーの開発チームを率いていたのがマクラクランだった。ところが今になると、マクラクランの革新的な研究成果を公に認める人はごくわずかで、大手製薬会社にいたってはいっさい口をつぐんでいる。しかもマクラクランは自身が開発に携わった技術から、いっさい収入を得ていない。 「ニュースを見ると、僕たちが開発した技術を使ったワクチンの話題ばかりだ」 「残りの人生をこの問題にこだわって生きていくつもりはないが、忘れてしまうことはできないだろう」とマクラクランは言う。「毎朝ブラウザを開いてニュースを見ると、どこもかしこもワクチンの話題ばかりだ。そのワクチンは僕たちが開発した技術を使っている。それは間違いない」 モデルナ社は、自社のmRNAワクチンがマクラクランの送達システムを使っているという疑いをきっぱり否定しているし、ファイザー社と提携するワクチン製造会社ビオンテックもその件については口を濁す。訴訟は継続中で、これには大金がかかっている。 モデルナ社、ビオンテック社、ファイザー社が2021年に販売したワクチンの売上げは450億ドルに達する見込みであるのに、3社ともマクラクランには一銭も金を支払っていない。 逆にグリットストーン・バイオ社(旧・グリットストーン・オンコロジー社)などのコロナウイルスワクチン製造会社は先頃、マクラクランが率いたプロティバ社とテクミラ社の共同開発による送達テクノロジーに、売上げの5~15パーセントに相当する権利を認めた。
3社とも否定しているが、FDAに提出された研究論文と申請書を調べれば、モデルナ社やファイザー=ビオンテック社のワクチンがマクラクランのチームの開発したシステムと酷似する送達システムを使用しているのは明らかだ。どちらも、慎重に配合された4種類の脂質分子をアルコールとTコネクター装置を用いて混合し、mRNAを高密度粒子で封入している。 モデルナ社は長年、独自開発の送達システムを使用していると主張していたが、いざ新型コロナワクチンをマウスで試験する段になると、マクラクランの開発技術と同じ4種類の脂質を同じ比率で用いていた。 臨床前のワクチン製剤設計はワクチン自体とは別物だというのがモデルナ社の主張だ。その後にモデルナ社が提出した書類によれば、同社のワクチンはマクラクランの送達システムと同じ4種類の脂質を使用しているが、1種類は特許を所有している脂質で、「微修正された」未公開の比率を用いているという。 ファイザー社とビオンテック社も同工異曲だ。FDAの文書によれば、両社のワクチンはマクラクランの開発チームが数年前に特許を取得したものとほぼ同じ比率の4種の同一の脂質を使用している。ただし、脂質の1つは新たに登録した変種であるが。
マクラクランを無視する者ばかりではない。「LNP〔脂質ナノ粒子〕についてはイアン・マクラクランの功績が大きい」とカタリン・カリコは言う。2013年にビオンテック社に入るまでに、mRNA治療法の土台を築き、2021年10月のノーベル賞最有力候補者でもあった科学者だ。しかしカリコはマクラクランに苦言を呈してもいる。数年前、mRNA関連の自社設立に動いた際、送達システムの利用にマクラクランが協力的でなかったからだ。「〔マクラクランは〕偉大な研究者かもしれないが、先見の明がない」 7年前、マクラクランはテクミラ社を辞職し、輝かしい発見と経済的見返りの可能性に背を向けた。送達システムをめぐる泥沼の法廷闘争やバイオ医薬品業界内の政治的駆け引きに疲れたのだ。マクラクランの心境は複雑である。チャンスを逃したのかもしれないが、世界を救う手助けをしたという思いもある。 「チームのメンバーはこの技術の開発に心血を注いだ。研究に身も心も捧げた」とマクラクランは言う。「あくせく働き、骨身を削って研究に没頭した」
モデルナ社の広報責任者レイ・ジョーダンは米フォーブスの取材に文書で回答を寄せた。「確認したところ、旧型製品のなかにはテクミラ社の知的財産権の許諾を得たものがありました。しかし、(コロナワクチンを含む)新型製品は新技術を取り入れています」 ビオンテック社はコメントを差し控えた。ファイザー社の主任研究員ミカエル・ドルステンの話では、ファイザー=ビオンテック社のワクチンは正式に特許を取得済みで、最初に認可されたmRNA製品の開発中、年間30億回分を生産するために送達システムを修正したという。 「ごく小さな規模でうまくいっても、規模が大きくなればプロセスは変わってくる。似たように見えても、仮定条件は科学の発展や情報源の違いによって変化するものだ」とドルステンは言う。「名前とモル比が似ているからといって同じものだと決めつけるのは要注意だ」 ジェネバント社はコメントを出すのを控えたが、厳しい戦いが予想される。5月にバイデン政権は新型コロナワクチンの知的財産権の保有放棄を支持した。皮肉にも、こうした動きはモデルナ社とビオンテック社とファイザー社にむしろ有利に働く可能性がある。3社の巨額の利益に対するジェネバンド社からの損害賠償請求を阻めるからだ。 過去100年で最も重要と考えられる医学上の進歩に貢献していながら、その役割がバイオテクノロジー産業に抹消されたイアン・マクラクランにとっても、それでよかったのかもしれない。 「自分が貢献したという実感はたしかに持っている」とマクラクランは言う。「それをどう言われているか知っているし、この技術の始まりも見てきたから、複雑な心境だよ」
私が東芝セラミックスの在籍中の時、あれは27歳の時だったか、低アルカリルツボを開発したことがあった。それを商品名T-230Uとして売り出した。2年後その商品はコマツ電子に月2億円の売り上げを上げた。コマツ電子はそれを使いOSFフリーのウェハーで世界第2位になった。その頃私は一工場の技術者だった。唯一私がやったという証拠は特許だった。コマツ電子が私が発明者ということを知らなかったようだ。技術者の評価はお金ということで測ることはできない。正当な評価とは何だろう。わからない。