2020年 20年前の開発を量産化した

7〜11分

 我々は水ガラスから合成シリカを製造している。水ガラスからのコロイダルシリカが研究されたのは1950年代のデュポンの研究所だった。その後、1990年代からゾルゲル法がブームになった。この時の主役は水ガラスではなくケイ素アルキシドだった。その理由は水ガラスが天然石英由来で原料からの不純物が反応の早い段階で除去することができなかったからだ。それに対し、ケイ素アルコキシドは蒸留操作により容易に高純度が得られる。それで1990年に書かれた論文では水ガラスから高純度のコロイダルシリカはできないと書かれている。

 しかし、それだけではない。水ガラスを酸で中和反応すると高濃度のシラノールができるが、このシラノールが近くのシラノールと縮合しシロキサン結合を起こす。このシロキサン結合は安定で、シラノールには戻らないため、ゾル粒子が成長したときには、内部にシラノールが残りる。すなわちシリカゲルとなった時に細孔の中にシラノール基が残る。この特性を利用したのがクロマトグラフィーカラムの充填剤だ。

 それに対し、ケイ素アルコキシドの加水分解反応は反応系にアルコールが共存するため、加水分解反応とエステル化反応が平衡反応で起こる。したがってアルコキシドを残したまま重合反応が起きる。とするとシロキサン結合の直鎖の重合体ができ、それがゾル粒子となった時に、内部にはシラノール基がない(表面シラノールしか存在しない)粒子となり、さらにゲル化すれば、シラノール基がないシリカゲルとなる。

 すなわち、水ガラスから合成シリカ粒子を得るためには、純度とOH含有量の問題を解決しなければならないということである。純度を解決するためには、二つの方法がある。一つは高純度の水ガラスを使用することである。もう一つは精製方法を開発することである。高純度の水ガラスを作るには高純度の石英を使用すればよい。高純度の石英やホワイトカーボン、フュームドシリカである。しかしながらいくら高純度の石英を使用しても、精製なしには、ケイ素アルコキシドの純度にはかなわないのである。

 まず水ガラスを低濃度にし、UFフィルターを通す。これによって粒子状の不純物、ゲルを除去する。アルカリ性では金属水酸化物は溶解度が低くUFフィルターでかなりの高純度化が期待できる。次に活性炭によってイオンを捕集し、ろ過する。この前操作の後に、イオン交換する。この時に過酸化水素を入れておけばチタンなども除去可能であるが、キレート樹脂でやっても良い。しかし、こうやってできた合成シリカゲルでも、鉄やマンガンなどはケイ素アルコキシドから製作した合成シリカゲルよりも悪い。数ppbレベルは残るのである。

 ここで我々は新しい精製方法を発見した。これについては特許を出したばかりなので詳細はいえないが、文献、特許などには載っていない。この精製によって水ガラスからでもケイ素アルコキシドと変わらない純度が可能になった。

 次はOH含有量である。ケイ素アルコキシドと異なるゾル形成メカニズムにより、内部にシラノールを含むため、焼成によってOHを除去しにくい。通常の焼成条件では70ppmくらいである。これをどうにか30ppmくらいにまで下げるという課題が残った。もちろん焼成を真空でやれば、簡単に2-6ppmくらいまでに下げることができるが、設備投資や生産性が非常に悪くなる。そして汚染の可能性も大きい。

 シラノールは不安定で反応しやすい。それは誰でも知っている。そうであればシラノールを反応させて減らせばよい。焼成の前にある処理をして焼成をすると40ppmくらいまで下がった。後は焼成条件を変えて30ppmに届いた。

 こうやって水ガラスから合成シリカ粉を作ったが、一つ私にもわからないことがある。水ガラスを作るときに、様々な原料を使ってやると、微妙にできたシリカゲルが違うのである。お金があれば、TEMSなどで構造がわかるのだろうが、我々のような技術者にはできないことだ。いや、死ぬまでには解明して見せよう。「やればできる」ピッチャー崩れの漫才師が言ったことは本当だ。

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